11月3日に行われた第52回日本選手権オートレースで悲願のSG初優勝を遂げた森且行選手。7年前に雑誌「Number」で日本選手権への熱い想いを語っていました。特別にその記事を公開します。(初出:Sports Graphic Number836号 森且行「ゼロからの挑戦」)
<日本中を驚かせた転身から17年。25期生新人王、そして2度にわたるGI制覇を果たしたものの、これまでの歩みは決して順風満帆ではなかった。幾多の挫折を乗り越え、目指す目標はただひとつ――。>
その日、川口オートレース場は驟雨に見舞われていた。7月17日、第37回キューポラ杯の優勝戦。各選手が濡れた路面に手こずる中、森且行はスタートから勝負に出た。1周目でトップに立つと、そのまま後続を千切って独走。トップでゴールを駆け抜けた。4年半ぶり、2度目のGI優勝だった。
「久々の優勝だったんで、熱いものがこみあげてきました。でも、涙は流しませんでした。それはSG(スーパーグレード)を獲るまでとっておかなくちゃいけないから」
オートレーサーになって17年目になる。近づいては離れていくSG制覇という目標を追い、飽くなき挑戦を続ける姿には、もはや“元アイドル”の残像はない。
アイドルをやめる決意
森が芸能界を去り、子供の頃からの夢だったオートレース界の門を叩くことを決意したのは、アイドルとして人気絶頂の22歳のときだった。すべてを捨て、新しい世界に飛びこむことに恐怖は感じなかったという。
「絶対的な自信があったんです。入る前は3年でSGを獲れると思ってましたから」
ところが、選手養成所に入って2カ月目、早くも試練が訪れた。練習走行中に転倒しフェンスに激突。左股関節を脱臼骨折するという重傷を負ってしまったのだ。同期たちが順調にステップアップしていくのを見ながら、森は地道なリハビリに耐えた。
その甲斐あって、デビュー戦ではいきなり勝利。さらに、翌年は新人王決定戦で優勝。そのまま快進撃が続くかと思いきや、ランクが上がり、ハンデがなくなると、急に勝てなくなった。
「最初の頃は、乗り方だけで勝てると考えていたんです。エンジンとタイヤさえついていれば、あとは自分の腕で何とかしてやると。でも、甘かった。それだけじゃだめなんだと気づいて、エンジンの勉強を始めました」
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